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異なる分野から集結した才能「氷艶 hyoen2019 -月光かりの如く-」新たな総合芸術を誕生させたカンパニー


7月28日(日)横浜アリーナで千秋楽を迎えた「氷艶
hyoen2019 -月光かりの如く-」それは、日本から新たなエンターテイメントが誕生するだろう・・・そう予感したとおり圧倒される華麗さと気迫あふれる世界が待っていました。源氏物語を題材に外伝として創作されたオリジナルストーリー。大胆に描かれた、まさに「令和時代の新しい源氏物語」です。宮本亜門さん演出作品は昔から大好きでしたので、前作の歌舞伎とフィギュアスケートを融合させた松本幸四郎さん演出の「氷艶」から、さらに期待を胸に会場へ向かいました。オープニングからフィギュアスケートでしか表現できない独特の世界が音楽とともに観客を誘い、思わず時を忘れてその世界に引き込まれます。「氷艶」はそれだけではありません。今まで誰も見たことのない総合芸術、芝居、歌、音楽、踊り、振り付け、衣装、ヘアメイク、照明、小道具、映像演出など、すべてに平安絵巻のような世界が現代へ見事にアレンジされ、フィギュアスケートの動きや演者に合わせ細部まで考えつくされていました。チームラボによるインタラクティブプロジェクションが氷上をはじめスクリーン全面に描き出される舞台芸術は、演者に合わせシーンを次々に変えながら空間を生み出し、そのどれもが一切の妥協もなく創作されています。

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出典:PR TIMES『©氷艶2019』より

劇中ではストーリーの軸となる存在感を放ち、圧巻の演技力と歌唱力で源氏物語の世界をせつなく歌い上げていた平原綾香さん
。彼女は桐壺更衣と藤壺宮の二役を演じ分け、光源氏が幼い頃に失った母・桐壺への思慕を一心に受ける初恋の相手・藤壺宮として、ストーリーを最後まで引っ張っていきます。そして、光源氏の腹違いの兄・第一皇子、朱雀君として主役のライバル的な存在感を見せるのは、現役時代も実際に高橋さんの戦友であり、お互いに異なる魅力ををリスペクトし合うステファン・ランビエールさん。彼の高貴で気品漂う佇まいはセリフを発せずとも、すべてをその表現者としての質の高いパフォーマンスに集約されていて、彼から放たれるまさに皇帝にふさわしいオーラは私たち観客を常に引きつけてくれました。その母であり、桐壺更衣への激しい嫉妬と我が子を皇帝にするために、光源氏の母である桐壺更衣へ呪いをかけ殺害し、さらに光源氏を亡き者にしようとする弘徽殿の女御。その狂気ともいえる難しい役を演じたのは荒川静香さん。前回の氷艶でも女神と蛇髪姫という善と悪を見事に演じ分けられましたが、今回さらにパワーアップされ、普段は後輩思いの優しい荒川さんからは想像もつかない迫力の演技に、皆さん絶賛されていました。また、ベテラン俳優として深みのある堂々とした桐壺帝を演じられた西岡徳馬さん。光源氏と朱雀君の父として、そびえ立つ山のごとき存在感でストーリー前半をしっかりと固めてくださっていました。さらにスケーター陣の中でも実力派の方々が多数出演されていて、中でもいつもはコミカルな織田信成さんが、これまで感じたことのない不気味なまでの存在感を放っていた陰陽師。報われることのない朱雀君への想いを哀しく切々と舞う鈴木明子さん。

そして、元宝塚男役トップスターの柚希礼音さん演じる男装の海賊の長は、第二部での登場という役柄にもかかわらず、リンクに現れるだけで一瞬にして観客を引きつけます。光源氏を影で慕う想いが哀しくせつなく。後半では村上佳菜子さん演じる咲風と光源氏との歌唱を引っ張ってくださっていたように感じました
。さらにはストリートダンスと新体操を融合させたユニット「BLUE TOKYO」、和太鼓のユニット「MOTOFUJI」と、次々に展開される迫力のパフォーマンスに観客は息を飲むばかり・・・

俳優陣では光源氏の親友
的存在である頭中将を演じた福士誠治さん。主演の高橋さんを常に支える役柄はまさにハマリ役といえます。周囲を敵に囲まれている光源氏にいつも寄り添い、観ている側をほっとさせてくれる存在でもありました。その対照的な人物となるのが浪岡一喜さん演じる長道。弘徽殿の女御とともに桐壺帝亡き後、権力と欲望に身を投じていく人間の心の闇を見事に演じきり、大きな存在感を放っていました。俳優の皆さんの中にはスケート初心者の方もいらしたとはとても思えないスケーティングを見せてくださり、何事にも真摯に取り組んでいらっしゃればこそ、人はどのような分野でも自分が持てる力を余すところなく発揮できるのだと、改めて感じさせていただきました。さらに、この氷艶には、私がリスペクトするユリア・リプニツカヤさんが紫の上役で出演されていることも大きな魅力でした。彼女のソチオリンピッケへ続くシーズンの独特な表現力や芸術性、そのミステリアスな演技は当時まだ15歳とは思えない才能を感じずにはいられませんでした。怪我や摂食障害により現役を退いていた彼女を紫の上に抜擢され、ステファン・ランビエールさんを朱雀君にキャスティングされた宮本亜門さんには、さすがの眼力に敬服してしまいます。お二人が共演される舞いには、通常シングルスケーティングでは行われないペアスケーティングの技も組み込まれ、紫の上への報われない想いをせつなくも激しく表現するランビエールさんと、リプニツカヤさんの儚げで危うい透明感のある演技には観客の皆さんすべてが引き込まれていらしたのではないでしょうか。

そして何より、今回さらなる新境地を開かれた主演の高橋大輔さん、決してとどまることのない表現者としての才能には言葉を失うものがあります。この公演に際して、合宿中に高橋さんの歌唱や演技力といったさらなる魅力を最大限に引き出してくださっていたのは演出の宮本亜門さんをはじめ、共演者の皆さん、影で指導をされた方々が多くいらしただろうことは充分に伝わってきます。中でも驚いたのは、本来なら宝塚の男役の方だけが持つ独特な表現までもが高橋さんの歌い方や演技の手法、セリフ回しに入っていたことでした。生セリフは、少年期から青年期、円熟期に至るまで、成長に合わせて声のトーン、話し方までも変えながら、光源氏の孤独、悲哀、激情など、その時々の感情を訴えかけるように表現されていて、そのこだわりの演技には圧倒されます。さすがは日本男子フィギュアスケート界に新たな道を開いた方、どこまでもただ者ではありませんね。高橋さんの才能と並外れた吸収力というのでしょうか、どのような状況からも最高レベルのパフォーマンスに持っていく彼の力量にはいつも敬服してしまいます。

f:id:wishes-come-true:20190812121550j:plain出典:TOKYO HEADLINE『©氷艶2019』より

さらに第二部では、完全オリジナルストーリーが展開していきます。弘徽殿の女御朱雀帝の圧政に翻弄される民を救うため世界を変えよう、人は等しく幸せになる権利がある、そう光源氏は強い意志を持ちます。そして、亡くなったと思っていた紫の上が朱雀帝に囚われ生きていることを知り、民や彼女を救おうと立ち上がります。兄と弟の確執や心のすれ違いには、どこか源頼朝と源義経のような生きざまを合わせ持つ、そんなストーリーににアレンジされていたようにも感じました。人望、才能を持ちながら光源氏が悲劇的な最後を遂げていくクライマックスでは、都へ向かい朱雀帝の御所に乗り込んだ光源氏の前に立ちふさがる長道、さらに弘徽殿の女御朱雀帝。紫の上に降りかかる悲劇。高橋さんの絞り出すような悲痛な叫びとともに、ついに怒りを爆発させるセリフや殺陣のシーン。この凄まじいまでの演技力は、フィギュアスケートを自在に操り、他に類を見ない表現者である高橋大輔さんでなければ表現できないだろう迫力に満ちていました。

「私が愛した者は皆、去っていく。幸せになることなく去って行く。誰ひとり幸せにすることが出来ないのか、この私は。なぜ私は生まれて、なぜこの世に生きているのか。月よ教えてくれ。これが私の定めなのかこのセリフに込められた高橋さんの演技は今も脳裏に蘇ります。このシーンから繋がれていく激情や悲哀、圧倒的な孤独が観る者に迫るように表現され、その圧巻の独唱と舞い・・・これには会場で涙する方々が多くいらしたように思います。初めて人前で演技や歌唱を披露されているなどとは到底感じさせない表現者としての才能。私たちは完全に高橋大輔の創り出す世界に引き込まれていました。終演後あちらこちらで囁かれる「俳優・高橋大輔の誕生だね」の声に誰もが納得させられていたのではないでしょうか。

今回の「氷艶」カンパニーは、それぞれ活躍されるジャンルも違う一流の方々。そうしたトップスターの方々が集結し、おそらくはご自身の得意分野を互いに教え合いながら、またさらに才能を磨かれていらしたのではと想像しています。そして、衣装、小道具、照明、ヘアメイク、プロジェクションなど、影で支えるスタッフの方々、すべてを指揮された宮本亜門さん。そのカンパニーのエネルギーや思いが一丸となって、この舞台を創り上げていらしたことを私たちに感じさせてくれます。こうした芸術性の高い舞台を観せていただけた3日間の公演、今もその感動が呼び起こされ、それは人の持つ無限のエネルギー、力強さ、美しさといったものを体感させてくれた「これまで誰も想像できなかった総合芸術の誕生」でもありました。演者の皆さん、スタッッフの皆さんのカンパニーへの愛、作品への愛が伝わってくるようです。私自身もこういう出逢いに恵まれるクリエイターでありたい・・・そう感じさせてくれた芸術であり、人の持つ素晴らしさ、美しくあたたかなエネルギーが、そこには存在していました。千秋楽では、B'zの松本孝弘さんのテーマ曲が流れる中、鳴り止まない拍手に何度も何度も繰り返されたカーテンコール。演者の方々も観客もまだ終わりたくない、もっと演じたい観ていたい・・・そう願う気持ちで会場がひとつになっていたのが分かりました。会場全体が清々しいエネルギーで満たされ、人々をつつみこんでいたように感じます。ひととき、その素晴らしい空間に身を置くことのできた幸福感に満たされながら、幕を閉じた今回の「氷艶 hyoen2019 -月光かりの如く-」是非とも再演を願わずにはいられません。